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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)139号 判決 1991年3月19日

原告 株式会社 オーバン

右代表者代表取締役 佐瀬清

右訴訟代理人弁理士 松田喬

被告 特許庁長官 植松敏

右指定代理人 竹内弘昌

<ほか二名>

主文

特許庁が昭和五七年審判第二五一二号事件について平成二年三月一五日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨の判決

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五四年一二月二九日、別紙一に示すとおりの構成からなり、指定商品を第三一類「調味料・香辛料・食用油 乳製品」とする商標登録出願(昭和五七年商標登録願第九九二九八号)(以下「本願商標」という。)をしたところ、昭和五六年一一月二四日、拒絶査定されたので、昭和五七年二月一五日、これを不服として審判の請求をした。特許庁は、右の請求を昭和五七年審判第二五一二号事件として審理した結果、平成二年三月一五日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をなし、その謄本は同年五月三〇日原告に送達された。

二  審決の理由の要点

1  本願商標の構成及び指定商品は前項記載のとおりである。

2  これに対し原査定において本願商標の拒絶の理由に引用した商標中、登録第五一九三三八号商標(別紙二1参照)は、「ファミリー」の文字を縦書きしてなり、旧第四六類「獣乳、その製品及びその模造品」を指定商品として、昭和三二年六月一九日登録出願され、昭和三三年四月二五日登録され、同じく登録第六五九二一七号商標(別紙二2参照)は、「ファミリー」の文字を横書きしてなり、第三一類「マヨネーズソース、ドレッシング、ケチャップ、ウスターソース、しょうゆ、食酢、酢の素、ホワイトソース、ラーメンのつゆ、砂糖、氷砂糖、角砂糖、ぶどう糖、果糖、はち蜜、乳糖、麦芽糖、水あめ、人工甘味料、粉末あめ」を指定商品として、昭和三七年八月二九日登録出願され、昭和三九年一一月二六日登録され、それぞれ現に有効に存続しているものである(以下両登録商標を「各引用商標」という。)。

3  本願商標の構成は前記のとおりであるところ、該商標中の「ファミリ」と「セブン」の文字が「ファミリ セブン」と一体となって、何らかの意味合いを有する成語として一般に知られているものとは認めがたいところである。そして、各種商標にいろいろな数字を付した商標が存することは、よく目にするところである。よって、これらの数字はその商品の品番、記号、符号として認識されるものと認め得るところであり、本願商標を前述の事情に照らしてみると、該商標中の中央に「7」の数字を表し、その数字の英語読み「セブン」の文字をその商標の後半に表してなることより、「セブン」の文字部分は「7」の数字とともに自他商品の識別標識としての機能の弱い部分と認識されるというを相当とし、数字の「7」を中央に配してなるところと相俟って、全体として「ファミリーセブン」の称呼のほか、その前半部分「ファミリ」の文字部分から単に「ファミリ」(家族)の称呼、(観念)を生ずる場合も少なくないものといわざるを得ない。他方、各引用商標はその構成から「ファミリー」(家族)の称呼、(観念)を生ずること明らかである。

してみれば、本願商標は、各引用商標と称呼、観念において、類似の商標であり、その指定商品も各引用商標の指定商品を含んでいるから、結局、本願商標を商標法四条一項一一号の規定に該当するとした原査定は妥当であって、取り消すことができない。

三  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点1、2は認める。同3の判断は争う。審決は、本願商標の構成のうちから「ファミリ」の部分のみを抽出したうえで、本願商標からは「ファミリ」の称呼とこれに相応する「家族」の観念が生ずるとの誤った認定をし、そのために、本願商標と各引用商標との称呼及び観念についての判断を誤り、これが審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、違法として取り消されるべきである。

1  本願商標は、別紙一にみられるとおり「ファミリ」の片仮名文字と「セブン」の片仮名文字との間に横棒「‐」によって縦方向に二分した算用数字「7」を配置した構成からなるものであるところ、右の構成に照らしてみても、本願商標は、出願人の創造に係る複合語として構成されたものであり、かつ自他商品識別機能を奏するための商標として、その構成には個性を有するものである。個性がなければ、自他商品を区別ないし甄別する機能を奏することが不可能であるからである。そして、商標が、個性を有して他の商標との区別力ないし甄別力をもつということは、取りも直さず、主語となり得る内容を伴う独立した構成のものとみるべきことになる。このような観点からも、本願商標と引用商標との類否判断をする場合には、本願商標と引用商標との全体の構成を比較すべきものであって、審決のように本願商標の一部と引用商標とを対比すべき理由はない。審決のように、本願商標を分割して、これを対比判断の対象とすることは本願商標を他の標章に変化させて論ずるということにほかならない。したがって、審決が、本願商標の構成のうちから、「ファミリ」の部分のみを分割抽出して引用商標と対比した点は誤りである。

2  また、本願商標は、「7」を横棒「‐」をもって明確に縦方向に二分した構成(これに単なる数字ではなく本願商標の特有性を示す部分である。)と「セブン」の片仮名文字、それに「ファミリ」の表示とが一体となることによって個性的で、かつ主語的構成となり、これによって他の商標との甄別力を有することになるのであるから、横棒「‐」をもって縦方向に「7」を二分した構成は、本願商標の特殊性を表象する重要な部分であるのに、これを単なる数字の7と認定したうえ、「セブン」の文字部分は「7」の数字とともに自他商品の識別標識としての機能の弱い部分と認識されるとみた審決の認定判断は誤りといわざるを得ない。

3  更に、本願商標は前述のとおり全体としてみてはじめて構成上成立するものであり、自他商品識別機能を奏するものであるとすると、単に、「『ファミリ』(家族)の称呼、(観念)を生ずる場合も少なくないものといわざるを得ない。」とした審決の認定は合理的根拠のないところである。

第三請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一、二の事実は、認める。

二  同三の主張は、争う。審決の認定判断は正当であって、審決には原告主張のような違法の点はない。

1  本願商標は、「ファミリ」の片仮名文字と数字「7」と「セブン」の片仮名文字を横一列に配置し、該「ファミリ」と「セブン」は、該数字「7」の縦棒を上下に貫通する一本の細い横線を介して左右に配置されてなるものであるところ、該数字「7」は太線で大きく表されていることより、全体を一体のものと観察すべき事情はない。なお、該横線は該「ファミリ」と「セブン」を結ぶ「ハイフン」又は「ファミリ」についての「リ」の長音の表示ともみられるものであるから、本願商標は該構成に相応して、「ファミリーセブン」の称呼をも生ずることは明らかである。しかして、「ファミリー」又は「ファミリ」は、それ自体でまとまった音感を与えるものであり、これらと「セブン」の文字が一体となって独自の意味をもつ熟語又は複合語を構成しているとみるべき特段の事情も認められないところであり、しかも、数字が各種商品の商標に、商品の品番、記号、符号として付加されて使用されていることはしばしば目にするところであり、このことは、本願商標の指定商品の分野においても例外ではない(乙第一号証ないし第三号証参照)。本願商標の商標の構成中の「ファミリ」の文字のみが捉えられて取引に資される場合も決して少なくないとみるのが取引の経験則に合致するものといわなければならない。なお、該数字「7」の縦棒が「ファミリ」に続く横線で二分されているとしても、レタリングの発達した現今においては、需要者は数字についても諸種の表現形式に慣れていることからして、該数字が「7」を表しているものと容易に認識するものとみるのが相当であるところ、該数字は、数字の「7」の特性を失い、特別の図形等を構成するに至っているものとは認められず、むしろ、太線で大きく表されていることより「ファミリ」の片仮名文字に付し際立たせているものと認識されるとみられるものであるから、該「セブン」の文字は、該数字「7」と相俟って該数字を英語読みに表した文字(表音)の「セブン」を表示したものとみるのが相当であり、該「セブン」及び「7」は、商品の品番、記号、符号を表したものと認識されるものといわなければならない。してみれば、簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては、本願商標中の「ファミリ」の文字部分がそれ自体独立して自他商品の識別標識としての機能を果たす部分と把えて取引に資する場合も決して少なくないものといわなければならないので、本願商標に接する需要者は、該文字に相応して「家族」の意味合いを容易に看取する(乙第四、五号証にみられるように末尾の長音を省略して表示することは普通に行われていることである。)とともに、「ファミリ」の称呼をもって取引に資するものといわなければならない。

2  したがって、本願商標は、「ファミリー」(家族)の称呼、「家族」の観念を生ずることが明らかであるところの各引用商標とは、称呼、観念において類似するものであり、本願商標はいずれの引用商標とも類似しないという原告の主張は理由がない。

第四証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因一、二の事実(特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  取消事由の判断

1  本願商標が、別紙一に示すとおりの構成からなることについては当事者間に争いがなく、これによれば、本願商標は、「ファミリ」の片仮名文字とこれと同じ大きさ、書体による「セブン」の片仮名文字を横一列に配し、両者の中央に横棒「‐」によって縦方向に二分された比較的大きな算用数字「7」を配置したものであるところ、本願商標に接する者においては、該横線が比較的長く、かつ細い横線であって、二つの片仮名文字のほぼ中央をつないでいるところから、この横棒を「ファミリ」の片仮名文字と「セブン」の片仮名文字とを結ぶ「ハイフン」と認識するものと認めるのが相当である。そして、本願商標のうち「ファミリ」の文字が、家族や一家を表す英語のFamilyの語に相応する語であり、「セブン」の文字が、中央に配置された算用数字「7」の英語(seven)に相応する語であることも、容易に認識されるものと認められる。また、《証拠省略》によれば、数字が各種商品の規格を表すための品番、記号、符号として付加的に商標とともに表示される例の極めて多いことも認められるところであるから、実際の取引の場において、その商標の構成によっては、そのうちに「7」のような数字を含んだ商標に接した者が、その数字を商品の規格を表すための表示にすぎないと認識する場合のあることは否定できない。しかしながら、本願商標は、「ファミリ」の片仮名文字とこれと同じ大きさ、書体による「セブン」の片仮名文字をハイフンを介して横一列に配し、両者の中央に比較的大きな算用数字「7」を配した構成からなるものであるから、外観上、数字「7」と片仮名文字「セブン」の部分は、本願商標の構成において「ファミリ」の片仮名文字と同等の比重をもつ構成部分であることは明らかであり、かつ、「ファミリ」の片仮名文字とその余の構成部分との関係をその意味ないし観念の点からみても、「ファミリ」も「セブン」も極めて普通に用いられる文字であり、格別一方が商標の構成部分として注目されるものともいえないから、主従、軽重の関係があるものとも認められない。したがって、数字「7」と片仮名文字「セブン」の部分が「ファミリ」の片仮名文字に単に付加されたもので、商品の規格を表すための品番、記号、符号であるとみることはできず、また、本願商標の特徴的な構成が「ファミリ」の片仮名部分のみにあるものと認めることもできないことになる。そうすると、本願商標に接する取引者、需要者としては、本願商標を全体として観察し、「ファミリセブン」もしくは「ファミリーセブン」(《証拠省略》にみられるように末尾の長音を省略して表示することは普通に行われていることであり、このことは被告も認めるところである。)と一連に称呼するものと認めるのが相当である。このように、本願商標を「ファミリセブン」もしくは「ファミリーセブン」と一連に称呼しても、特に冗長となるものとはいえず、一連に称呼されるとみるのがむしろ自然でもあるというべきである。本願商標が全体として観察され、一体的に認識されるものとみるのが相当であるとすると、本願商標は、「ファミリ」と「セブン」の片仮名文字それぞれがもつ本来の意味を離れて、これらの語が結合した語としては一義的な意味もしくは観念を把握しがたい造語として認識されるものと認められる。

本願商標は、右のとおりのものと認識されるものであるから、「セブン」と「7」の構成部分が、被告の主張するように、商品の品番、記号、符号を表したものと認識されるものとはいえず、また審決の判断のように自他商品識別機能の弱い部分ともいえない。取引の実際において、いかに簡易迅速性が要請されているとしても、審決認定のように、一般取引者、需要者が本願商標の構成のうちの「ファミリ」の片仮名文字部分のみに注目して「ファミリ」のみの称呼と「家族」の観念のみをもって取引に当たるものとは到底考えられないところであるし、本願商標を「ファミリセブン」又は「ファミリーセブン」と称呼しても、「ファミリ」と称呼した場合に比し、簡易迅速性の要請を損なうものではなく、むしろ、取引界において簡易迅速性とともに求められる正確性の要請に応えるものということができる。

本願商標の称呼及び観念の認定についての被告の主張は失当であり採用できない。

2  右のとおりであるから、本願商標について、「ファミリ」の称呼、家族の観念を生ずる場合も少なくないとの認定に立って、各引用商標(各構成及び各指定商品が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがなく、いずれからも「ファミリー」の称呼と「家族」の観念が生ずるものと認められる。)と称呼、観念において、類似の商標であるとした審決の判断は誤りといわざるを得ない。

三  以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤った違法があることを理由に、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるものとして、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 舟橋定之 杉本正樹)

<以下省略>

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